健康診断の事後措置とは?中小企業がやるべき対応や流れについて徹底解説

従業員の健康診断結果に異常所見があっても、どうしたら良いのかわからず困っていませんか?

産業医がいない中小企業では、健診結果を渡すだけになっている会社も多いと思います。

看護師として働く私は、健診結果を放置したことで病気が重症化し、長期離職につながった患者を多く見てきました。

特に、従業員50人未満の中小企業では、1人が長期間働けなくなると会社全体に大きな影響がでます。

事後措置は法律によって義務づけられているだけではなく、こうした事態を防ぐためにも重要な取り組みです。

この記事では中小企業の経営者向けに健診後の流れや企業の責任について詳しく解説します。

目次

事後措置とは

事後措置とは、健康診断で異常所見があった従業員に対して、医師の意見をもとに就業上の対応を行うことです。

具体的な対応ポイントは以下のとおりです。

  • 就業場所や時間の変更
  • 労働時間の短縮
  • 夜勤回数の減少
  • 設備の整備

従業員の健康状態に応じて、働き方や職場環境を調整します。

企業は健診結果を活用し、従業員の健康をサポートすることが求められます。

健康診断の事後措置はなぜやるの?

事後措置を行う理由は以下の2つです。

  • 労働安全衛生法で義務づけられているから
  • 安全配慮義務があるから

労働安全衛生法とは、労働者の安全や健康を守るための法律です。健康診断や保健指導などもこの法律に基づいて行われます。

企業には異常所見の判定を受けた従業員に対し、事後措置を行う義務があります。従業員50人未満の中小企業も対象です。

また労働契約法により、企業には労働者の健康に配慮する責任があります。

健診後の対応を怠り健康被害が生じた場合、安全配慮義務違反として損害賠償を請求される可能性があります。(※1)

法律の内容を確認したうえで、適切に対応を進めていくことが重要です。

事後措置の具体的な流れと企業の義務

事後措置の流れと期限を以下の表にまとめます。

流れ期限
①定期健康診断の実施年1回
②異常所見の有無のチェック結果を受け取ったら遅滞なく
③健康診断結果の通知結果を受け取ったら遅滞なく
④産業医からの意見聴取健診を行った日から3か月以内
⑤就業上の措置の決定意見聴取のあと速やかに

なお、一連の対応が終わったあとも、健康診断個人票は5年間保存します。

①定期健康診断の実施

定期健康診断は全従業員を対象に年1回行います。(※2)全員が忘れずに実施できるように周知する必要があります。

健康診断の費用は会社負担が原則ですが、協会けんぽの契約健診機関で受診すれば、一部補助がでます。対象者や金額は協会けんぽのホームページで確認できます。

②異常所見の有無をチェック

健康診断の結果が届いたら異常所見の有無を確認します。必要があれば業務に関わる担当者間で共有しましょう。
異常所見があった従業員は事後措置の対象となるため、再検査や精密検査を促します。

このとき、健診結果を適切に管理することも会社の責任です。

個人票は基本的に健診を委託した医療機関が作成しますが、医師の意見と措置内容は措置決定後に会社側で記入するので、記載忘れがないよう注意が必要です。

作成した個人票は一定期間保存します。(※2)(※3)一般健康診断は5年間、特殊健康診断は内容によって保存年数が異なります。

③健康診断結果の通知

会社は健康診断の結果を受領したら、遅滞なく従業員に通知しなければなりません。(※2)

健診結果の通知は、従業員が自らの健康状態を把握し、セルフケアに取り組むうえで重要です。

結果を伝える際は、書面またはメールを用いて記録に残します。口頭のみでは、万が一トラブルになった場合に、会社が通知をした事実を証明できないからです。

また、結果を従業員に伝えるだけでは事後措置を行ったことにはならないので、医師の意見聴取を行います。

④産業医からの意見聴取

異常所見のある従業員には、健康診断実施日から3か月以内に産業医から意見聴取を行う義務があります。(※2)(※3)

産業医がいない場合は、地域産業保健センター(地さんぽ)の登録産業医に無料で相談できます。(※4)

地さんぽは従業員50人未満の企業を対象とした国の支援制度です。利用の流れは以下のとおりです。(※5)

  1. 都道府県ごとの地さんぽをネットで検索
  2. 電話またはWebで相談を申し込む
  3. 健康診断の結果を持参して産業医に意見を聞く

産業医がいなくても、地さんぽと連携すれば意見聴取の義務を果たせます。

聴取後は従業員の状態を観察しながら、必要な措置を進めます。

⑤就業上の措置の決定

医師に意見聴取をしたら、通常勤務、就業制限、要休業の区分に分けます。(※2)(※4)

各区分と対応内容は以下のとおりです。

就業区分通常勤務就業制限要休業
対象者就業上の措置は必要なし健康の確保のために勤務の制限が必要療養のため、休業が必要
必要な措置該当なし・作業内容の変更や労働時間の短縮
・作業環境の改善や設備の整備
・衛生委員会へ報告し審議(従業員50人以上が対象)
・休業
・医療機関の受診や治療の推奨

就業区分の最終決定は産業医の意見をもとに企業が行います。

措置は会社が一方的に行うものではなく、従業員と十分な話し合いを行うことが大切です。

事後措置の具体例

措置が必要な事例を3つ紹介します。

高血圧で要医療となったケース(就業制限)

高所作業や運転などの業務では、高血圧による発作(脳卒中や心筋梗塞など)が重大事故につながる可能性があります。

要医療と判定された場合、産業医または地さんぽの意見をもとに、血圧が安定するまで一時的に別の作業へ変更します。治療で改善したら、改めて意見を聞いて元の業務に戻ってもらいます。

深夜勤務で疲労や不眠が強いケース(就業制限)

深夜勤務や長時間労働で強い疲労や不眠がある従業員には、労働時間の短縮や深夜業の回数を減らすなどの調整が必要です。生活習慣の見直しが必要な場合は、地さんぽで産業医や保健師に相談可能です。

病気が見つかり休業が必要なケース(要休業)

重い病気が見つかり、治療に専念する必要がある場合、一定期間の休業(要休業)とします。回復したら、医師の意見を参考に段階的に職場へ復帰してもらいます。

健康診断の事後措置を実施する際の注意点

注意点は以下の3つです。

  • 従業員に不利益な対応をしない
  • 個人情報の取り扱いに注意する
  • 従業員への適切な説明とコミュニケーションを行う

従業員に不利益な対応をしない

不利益な対応とは、例えば以下のような内容です。(※4)

  • 高血圧だから解雇する
  • 病気があるから降格する
  • 給与の引き下げをする
  • 退職を勧める
  • 不当な動機や目的を含んだ配置転換をする

事後措置の目的は、従業員の健康を守ることです。そのため、健診結果を理由に不利益な対応はしてはなりません。

「本人のため」という理由で退職を勧めることも問題となります。

退職を促すのではなく、働き続けられる環境を整えることが会社の役割です。

個人情報の取り扱いに注意する

健診結果は個人情報であり、適切な管理体制が必要です。

ほかの従業員に教えたり、社長の机に放置するなどの行為は個人情報保護違反となります。

個人情報の取り扱いに関して、以下のような管理体制が必要です。(※6)

  • 健康診断に関する個人情報の管理責任者を決める
  • 業務目的で健康診断の個人情報を閲覧できる人を決める
  • 紙媒体の場合は、鍵のかかる丈夫な棚に保管する
  • 電子データの場合は、暗号化してパスワードをかける

就業制限で管理監督者に説明する際は、本人のプライバシーに十分な配慮が必要です。

従業員への適切な説明とコミュニケーションを行う

事後措置が必要な従業員に対しては、実施前に内容を説明することが法律で定められています。(※2)

個別面談の機会を設け、質問や意見を言いやすい環境を作りましょう。

従業員に理解や納得をしてもらうことで、職場全体の安心感や信頼関係の形成にもつながります。

中小企業の事後措置に関してよくある質問

事後措置は従業員50人未満の中小企業でも義務ですか?

規模に関わらず、異常所見がある従業員への事後措置は義務です。

事後措置をやらないとどうなりますか?

安全配慮義務違反として、従業員から損害賠償を請求される可能性があります。

また、労災事故や従業員からの申告をきっかけに、行政の調査が入るリスクもあります。

産業医がいない場合は医師の意見聴取はどうすれば良いですか?

地域産業保健センターの産業医に無料で相談できます。

従業員が「要再検査」なのに受けてくれません。費用や会社の義務はどうなりますか?

要再検査や精密検査の受診は本人の判断に委ねられているため、会社は強制できません。ただし、受診を推奨したことを書面で残すことが重要です。
費用は基本的に本人負担ですが、保険適用となることが多いので比較的少額で済みます。

また、受診する時間の確保や、近隣の医療機関の案内を行うことで受診率向上につながります。

パートやアルバイトも事後措置の対象ですか?

週の所定労働時間が通常の従業員の4分の3以上で、異常所見があれば事後措置の対象となります。(※7)

実は事後措置の対象にならない人こそ重要!”余裕があるうち”の健康投資を!

ここまで解説してきた事後措置は、要医療や要再検査と判定された人への対応です。

ですが、実は従業員に多いのは、その一歩手前にいる予備軍です。

予備軍こそ放置されがち

この予備軍とは、健診では異常なしでも、血圧・血糖値・脂質がじわじわと上がってきている人たちです。法律上は措置の対象外なので、本人も「まだ大丈夫」と感じ、つい放置しがちです。

ただ、看護師として言えるのは、気づいたときにはすでに症状が進行しているケースが多いということです。だからこそ、症状が出る前に対応する必要があります。

予備軍のうちこそ、費用対効果の良い健康投資

まだ症状が出ていない予備軍の段階で動くのが、費用対効果の良いタイミングです。

病気になってから治すよりも、病気になる前に防ぐほうが、将来の医療費・労災・離職・プレゼンティーズム(体調不良で生産性が低い状態)など見えないコストを少ない負担で抑えられるからです。

つまり、従業員の健康にかけるお金や手間は、単なる出費ではなく、将来の損失を防ぐための健康投資です。これを経営に取り入れる考え方が、健康経営です。

また、予備軍の健康づくりには、国の特定保健指導があります。健診後に、保健師や管理栄養士が生活習慣の改善をサポートする制度です。

国の制度に加えて、会社自身も、血圧測定・健康セミナー・相談窓口などから始められます。これらは、予備軍が自分の状態に気づくきっかけになります。

とはいえ、産業医も保健師もいない中小企業で、予備軍の対応まで行うのは難しいです。

だからこそ、事後措置のその先(予防・健康投資)まで踏み込みたいという経営者には、外部の専門家による伴走が役立ちます。

BizWellyでは、LINEでの医療チーム相談・身体測定・現場改善などで、予備軍からの健康づくりを支援しています。まずは自社の健康課題を整理するところから、お気軽にご相談ください。

まとめ

事後措置で何より大切なのは、健診結果を従業員に渡して終わりにしないことです。

異常所見を放置すると、安全配慮義務違反となるだけではなく、大切な人材を失うリスクにもつながります。

また、事後措置は単なる義務ではなく、従業員の健康を守り、生産性の向上にもつながる健康経営の第一歩でもあります。

産業医がいないからと悩む必要はありません。地さんぽを活用すれば、従業員50人未満の中小企業でも適切な対応が可能です。まずは、あなたの地域の地さんぽを検索しましょう。

参考文献

  1. 厚生労働省:「労働契約法のあらまし
  2. e-GOV:「労働安全衛生法
  3. e-GOV:「労働安全衛生規則
  4. 厚生労働省:「健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針
  5. 労働者健康安全機構:「地域窓口(地域産業保健センター)
  6. 厚生労働省:「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン
  7. 厚生労働省:「パートタイム労働者の健康診断を実施しましょう

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