【2026年4月】高年齢労働者の転倒対策・中小企業の経営を守る5つの方法

高年齢労働者の転倒対策は、2026年4月の労働安全衛生法の改正により事業者の努力義務となりました。

とはいえ、専任担当者がいない中小企業では、何をどこから始めるべきか判断に迷うのが実情です。

本記事では、厚生労働省指針の5措置をもとに、中小企業が明日から取り組める5つの具体策を解説します。

形だけの対応にせず、自社で実行できる対策を見つけたい方は、ぜひ参考にしてください。

目次

【2026年4月】高年齢労働者の労働災害防止対策が努力義務化

ここでは、対象社員はどこからか、2026年4月から具体的に何が変わったのかを解説します。

高年齢労働者とは?法令・指針が対象とする年齢層

高年齢労働者とは、おおむね60歳以上の労働者を指す用語です。

改正労働安全衛生法および厚生労働省「高年齢者の労働災害防止のための指針」(2026年4月1日適用)には、年齢の明示的な定義はありません。

ただし、厚生労働省の解説や統計データはいずれも60歳以上の労働者を対象にしており、実務上はこの年齢層を念頭に対策を進めることになります。

「高年齢労働者」「高年齢者」は混同されがちですが、根拠とする法令によって対象年齢が異なります。

用語根拠となる法令対象年齢
高年齢労働者改正労働安全衛生法高年齢者の労働災害防止のための指針明示的定義なし(60歳以上が念頭)
高年齢者高年齢者雇用安定法55歳以上

参考:e-Gov法令検索「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律 第2条1項、同法施行規則 第1条

雇用形態は問われません。正社員に限らず、再雇用のシニア社員・パートタイマー・嘱託社員も、60歳以上であればすべて対象に含まれます。

参考:厚生労働省「高年齢労働者の安全衛生対策について

改正労働安全衛生法の主な改正点と事業者の対応範囲

今回の改正で変わったのは、高年齢労働者の労働災害防止対策に法律の裏付けがついた点です。

これまでは法的根拠を持たないガイドラインでしたが、改正により労働安全衛生法に基づく指針として事業者の努力義務になりました。

改正法は2025年5月14日に公布され、高年齢労働者に関する規定は2026年4月1日から施行されています。

新たな指針の正式名称は「高年齢者の労働災害防止のための指針」で、従来の「エイジフレンドリーガイドライン」は廃止されました。

参考:厚生労働省「高年齢労働者の安全衛生対策について

参考:厚生労働省「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律

高年齢労働者の転倒災害の現状

ここでは、転倒災害が労働災害全体に占める割合と、高年齢労働者特有のリスクを解説します。

年間3.6万件、事故型別トップの転倒災害

転倒は労働災害のなかで最も多い事故です。

厚生労働省「令和6年の労働災害発生状況」によると、休業4日以上の労働災害のうち、転倒が全体の26.8%を占めて事故型別トップです。

さらに、労働災害全体に占める60歳以上の割合は30.0%に達しており、特に60歳以上は若い世代と比べて発生率が大きく跳ね上がります。

指標数値
転倒災害の年間件数(令和6年)36,378件
全労働災害に占める転倒の割合26.8%(事故型別トップ)
全労働災害に占める60歳以上の割合30.0%

厚生労働省が5年ごとに策定する第14次労働災害防止計画(2023〜2027年度)でも転倒災害対策が重点課題のひとつです。

2027年までに転倒災害対策に取り組む事業場の割合を、50%以上にする目標も示されています。

加齢とともに労災のリスクは確実に高まります。転倒対策は全年代に共通する課題でありながら、高年齢労働者では特に避けて通れないテーマです。

参考:厚生労働省「令和6年の労働災害発生状況

参考:厚生労働省「労働災害防止計画について

60歳以上女性の転倒リスクは20代女性の15倍

高年齢労働者のなかでも、転倒リスクが特に高いのが女性です。

2023年の厚生労働省の資料によると、女性の「転倒による骨折等」の死傷年千人率(労働者1,000人あたり、1年間で労災にあった人の数)は、60歳以上が20代の約15.1倍に達しています。

これは、女性は加齢にともなう身体機能の低下に加え、骨粗しょう症などによる骨密度の低下で転倒後の骨折リスクが高まるためです。

対策の優先順位を決めるうえで「60歳以上の女性がいる職場ほど早期着手すべき」という根拠が、数字として裏づけられています。

参考:厚生労働省「Q 死傷年千人率とは何ですか。

参考:厚生労働省「広報誌・厚生労働 2024年7月号

高年齢労働者の転倒の原因

ここでは、職場で起きる転倒の原因を「3つのパターン」と「身体機能の主要4要因」の2つの観点から解説します。

転倒3パターン(滑り・つまずき・踏み外し)

職場で起きる転倒は、主に次の3パターンです。

厚生労働省の「STOP!転倒災害プロジェクト」でも、この分類が転倒対策の基本として示されています。

  • 滑り:濡れた床・油・氷面などで、足元のグリップが失われるパターン
  • つまずき:段差・コード・床の部品などに、爪先が引っかかるパターン
  • 踏み外し:階段・段差・はしごなど、足を置く位置を誤るパターン

例えば、製造業では切削油・冷却水のこぼれによる滑り、台車昇降での踏み外しが典型例です。

業種ごとに発生しやすいパターンは異なります。

現場のヒヤリ・ハットを「どのパターンに該当するか」で分類すると、対策への手がかりになるでしょう。

参考:厚生労働省「STOP!転倒災害プロジェクト:転倒災害の原因

加齢で変化する身体機能の主要4要因(視力・筋力・反応速度・平衡)

加齢に伴って低下する身体機能のうち、転倒に直結するのは次の4要因です。

  • 視力低下:段差や暗い場所が見えにくくなる
  • 筋力低下:足が上がらずつまずきが増える
  • 反応速度の低下:体勢が崩れてもとっさに反応できない
  • 平衡機能の低下:ふらつきや姿勢の崩れが増える

「筋力・平衡性・敏捷性」は、中央労働災害防止協会の調査研究で示された転倒の主要因です。

これに、厚生労働省「STOP!転倒災害プロジェクト」が加齢で低下する身体機能として明示している視力(視認性)を加え、4要因としています。

また、近年転倒リスクとして注目されているのが聴覚低下です。

加齢性難聴があると、周囲の音から距離感や障害物を把握する力が落ち、バランス機能にも影響することが報告されています。

健康診断の聴力検査結果も、転倒対策の視点で見直す価値があります。

身体機能の変化は、本人も気づかないうちに進むものです。

だからこそ、現場の安全対策は環境整備(ハード面)と身体機能の把握(ソフト面)を組み合わせることが基本になります。

参考:厚生労働省「STOP!転倒災害プロジェクト:加齢と転倒災害

参考:中央労働災害防止協会「高年齢労働者の身体的特性の変化による災害リスク低減推進事業に係る調査研究報告書

参考:地方独立行政法人 東京都健康長寿医療センター研究所「―難聴の高齢者が転倒しやすいのはなぜか?―聴覚情報が制限されると円滑な障害物の回避行動が阻害されることが明らかに

高年齢労働者の安全対策

ここでは、厚生労働省指針の5措置と、中小企業が明日からできる5つの具体策を解説します。

厚生労働省「高年齢者の労働災害防止のための指針」5つの措置

改正で公示された「高年齢者の労働災害防止のための指針」には、事業者が取り組むべき措置として5項目が示されています。

措置主な現場対応
①安全衛生管理体制の確立経営トップによる方針表明
リスクアセスメントの実施
安全衛生委員会等での調査審議
②職場環境の改善ハード面:段差解消・手すり設置・照度確保・危険箇所の「見える化」ソフト面:ゆとりある作業計画・休憩時間の確保
③健康や体力の状況の把握定期健康診断の確実な実施体力チェックの活用
④健康や体力の状況に応じた対応身体機能の低下を補う設備・装置の導入業務内容の見直しや配置の調整
⑤安全衛生教育高年齢者の特性に応じた教育写真や図、映像など文字以外の情報の活用十分な時間をかけた丁寧な教育訓練

指針は各事業場の実情に応じた取組みを求めています。

中小企業の現場では何から始めるべきか、みていきましょう。

参考:厚生労働省「「高年齢者の労働災害防止のための指針」について(公示)

中小企業ができる5つの具体的な転倒対策

厚生労働省「STOP!転倒災害プロジェクト」を中心に、明日からでも取り組める5つの対策を紹介します。

  1. 4S・KY活動の習慣化

4S(整理・整頓・清掃・清潔)は、転倒対策の基本的かつ最も重要な対策と位置づけられています。

滑りやつまずきの主な原因は、床面の水濡れ・油汚れや通路上の荷物です。

これらを取り除くだけでも、転倒リスクは減らせます。

KY(危険予知)活動と組み合わせれば、現場で気づいたリスクをそのまま対策につなげられます。

具体的な対策:朝礼で前日のヒヤリ・ハットを1件読み上げ、全員で対応方針を共有する。

  1. 適切な安全靴の支給と定期交換

安全靴は、滑り・つまずきを防ぐ大切な保護具です。

転倒防止に有効な安全靴の条件として、屈曲性・重さ(短靴で1足900g以下)・靴底の滑りにくさなどが挙げられています。

基準としては、JIS T8101(日本産業規格・安全靴)に準拠した製品を選ぶとよいでしょう。

具体的な対策:現場の安全靴がJIS T8101規格を満たしているか確認する。

  1. 危険箇所の見える化

危険箇所に印をつけるなどの「見える化」も、転倒対策の柱のひとつです。

段差・濡れやすい床・台車昇降ポイントなど、ヒヤリ・ハットが起きやすい場所を視覚的に示すと、現場で働く人の注意を促せます。

特別な設備投資をしなくても、テープや標識ですぐに始められるのが利点です。

具体的な対策:現場の危険箇所(階段の段差・濡れやすい床・台車昇降ポイントなど)を黄色テープでマーキングする。

  1. 始業時のストレッチ・体づくり

加齢で低下する身体機能4要因の維持・向上は、転倒の根本要因にアプローチする取り組みです。

厚生労働省は転倒予防体操として「転倒・腰痛予防!いきいき健康体操」を公開しています。

朝礼などに取り入れるだけで、特別な設備や時間を確保せずに対策が可能です。

具体的な対策:朝礼の最後に5分間、いきいき健康体操の動画を見ながら全員で実施する。

  1. 定期健康診断と聴力・体力チェックの活用

高年齢労働者の転倒対策には、従業員の身体状況を把握する仕組みが欠かせません。

厚生労働省指針の措置③でも、定期的な健康診断に加えて体力チェックなどの活用が示されています。

一人ひとりの状態を把握しておくと、業務内容の見直しや配置の調整にもつながります。

具体的な対策:60歳以上の従業員の健康診断結果を、転倒リスクの観点で見直す。

参考:厚生労働省「STOP!転倒災害プロジェクト:4S活動、KY活動

参考:厚生労働省「STOP!転倒災害プロジェクト:転倒防止に有効な安全靴

参考:厚生労働省「STOP!転倒災害プロジェクト:危険箇所の表示等の危険の「見える化」

参考:厚生労働省「職場の安全サイト:転倒・腰痛防止用視聴覚教材

参考:厚生労働省「「高年齢者の労働災害防止のための指針」について(公示)

エイジフレンドリー補助金の活用

高年齢労働者の労働災害防止対策を進める中小企業向けに「エイジフレンドリー補助金」という制度があります。

段差解消や手すり設置、滑り止め床改修など、転倒対策の設備導入にかかる費用が補助対象です。

公募開始は例年5月ごろですが、年度ごとに対象コースや補助率が変わります。

最新の公募要領は、厚生労働省の公式ページで確認するとよいでしょう。

参考:厚生労働省「エイジフレンドリー補助金

健康経営との連動・転倒対策をKPIに組み込む

ここでは、転倒対策が経営に与える影響を、プレゼンティーイズムと健康経営優良法人認定の2つの観点から解説します。

プレゼンティーイズムでみえる「事故前の経営損失」

転倒対策が経営に与える影響は、事故が起きてからの損失だけではありません。

事故前から事故発生時まで、損失は段階的に積み上がっていきます。

損失のタイミング損失の内容金額・日数の目安
事故前プレゼンティーイズム(不調による生産性低下)従業員1人あたり年間73.0万円(中小企業6社の試算)
事故発生時転倒1件あたりの平均休業日数47.5日
事故発生時人員補充残業代引き継ぎコスト状況により変動

事故前の損失を示すのが「プレゼンティーイズム」です。

出勤しているものの心身の不調で生産性が落ちている状態を指します。

横浜市と東京大学政策ビジョン研究センターが市内中小企業6社162人を対象に行った効果測定では、従業員1人あたりの労働生産性損失は年間76.7万円と試算されました。

足の痛みや疲労を抱えながら働く高年齢労働者がいる職場ほど、この損失は大きくなります。

実際に転倒が起きれば、損失はさらに膨らみます。

厚生労働省「令和6年の労働災害発生状況」によると、転倒災害による平均休業見込日数は47.5日です。これは、被災者が約1.5か月職場を離れる長さに相当します。

これに人員補充・残業代・引き継ぎコストが加われば、中小規模の事業場では経営に無視できない規模の損失です。

こうした損失構造を踏まえると、転倒対策は事後対応ではなく、事故前から計画的に取り組む「投資」として位置づけられます。

参考:横浜市「健康経営

参考:厚生労働省「令和6年の労働災害発生状況を公表

健康経営優良法人認定を後押しする転倒対策

転倒対策は、労災防止だけでなく健康経営優良法人認定の取得を後押しする取り組みです。

観点転倒対策が認定取得に与える影響
攻めの側面認定取得による採用・取引先評価の向上に寄与する
守りの側面安全配慮義務違反による送検は認定の前提を崩す

健康経営優良法人認定は、経済産業省が主導する顕彰制度です。

経済産業省はその意義を「従業員や求職者、関係企業や金融機関などから社会的な評価を受けることができる環境の整備」と位置づけています。

認定取得は、採用ブランディングや取引先評価の向上といった攻めの側面を持つ取り組みです。

一方、認定取得には守りの要件も含まれます。

中小規模法人部門の「法令遵守・リスクマネジメント」項目では、労働基準法および労働安全衛生法違反による送検歴がないことが、認定の必須条件です。

重大な転倒労災で安全配慮義務違反が問われ送検に至れば、認定取得の前提が崩れます。

つまり転倒対策は、認定取得を後押しする「攻め」と、認定の前提を守る「守り」の両面で効果を発揮します。労災防止の取り組みが、そのまま認定取得への近道にもなる構造です。

参考:経済産業省「健康経営優良法人認定制度

参考:日本経済新聞社「健康経営優良法人2026(中小規模法人部門)認定要件

BizWellyの導入事例

ここまで転倒対策の具体策と経営への効果を解説しました。

ただ、これらの対策をすべて自社で進めるとなると、専任担当者がいない企業では難易度が高くなります。

こうした場合の選択肢の一つが、外部の専門家による支援です。

BizWellyは、産業医・保健師・理学療法士のチームによる伴走支援サービスで、現場を訪問しながら転倒対策の設計から実装までをサポートします。

BizWellyとともに転倒対策に取り組まれた製造業2社(井戸口産業様・長山製作所様)の事例を、別ページにてご紹介します。

→BizWellyの導入事例を見る

FAQ・よくある質問

ここではよくある質問について解説します。

Q1:努力義務だからやらなくても罰則はない?

A:罰則はありません。

ただし、行政指導の対象になることや、労災発生時には安全配慮義務違反による損害賠償リスクが生じる可能性があります。

参考:e-Gov法令検索「労働安全衛生法 第62条の2 第1項

参考:e-Gov法令検索「労働契約法 第5条

参考:e-Gov法令検索「民法 第415条

Q2:50名未満の小規模企業も対象?

A:従業員数を問わず、努力義務の対象です。

なお、エイジフレンドリー補助金は50名未満の企業でも活用できます。

参考:e-Gov法令検索「労働安全衛生法 第62条の2 第1項

参考:厚生労働省「エイジフレンドリー補助金

まとめ・転倒対策は経営を守る投資

高年齢労働者の転倒対策について、法改正の背景から現場の具体策、経営に与える影響までを解説してきました。

転倒対策は、次の4つの観点から経営を守る投資です。

  • 法的リスクの回避:安全配慮義務違反による損害賠償を未然に防ぐ
  • プレゼンティーイズム損失の防止:従業員1人あたり年間73.0万円の生産性損失を抑える
  • 健康経営優良法人認定への貢献:採用ブランディングや取引先評価に貢献
  • 補助金活用によるコスト圧縮:エイジフレンドリー補助金で投資負担を軽減

とはいえ、自社だけでは手が回らない部分もあるでしょう。

そんな時に役立つのが、BizWellyの健康経営支援サービスです。

専門職のチームが以下のサービスを提供し「社外の健康管理室」として健康経営を支援します。

  • 健康経営アプリ:従業員の健康状態を可視化、24時間専門職に相談可能
  • 健康経営コンサルティング:事務負担を軽減し、課題整理から実行まで伴走
  • セラピストの出張施術:理学療法士が現場で身体の不調に直接対応

専任担当者がいない企業でも、無理なく対策を始められます。

まずは無料のサービス資料をダウンロードして、BizWellyの支援内容をご確認ください。

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