高年齢労働者の転倒防止対策とは?製造業がまず取り組むべき5つの手順

従業員の平均年齢が上がる製造業では、経験豊富な社員が安全に働き続けられる環境づくりが欠かせません。転倒を本人の不注意だけで捉えると、床の状態や通路、作業方法にある原因を見落とすおそれがあります。

この記事では、高年齢労働者の転倒防止について、中小製造業で取り組むための5つの手順を整理します。5つの手順は、国の指針を参考に実務で進めやすくまとめたもので、法令が定める手順そのものではありません。

この記事の監修

日下克野

日下克野

理学療法士/健康経営エキスパートアドバイザー

    株式会社Under The Sun代表取締役。企業専属の外部健康管理サービス『BizWelly』総合監修。理学療法士としての臨床経験を活かし、製造業・建設業を中心とした中小企業の健康経営を牽引している。単なるアドバイスや認定の取得ではなく、企業が成長するための経営戦略として、計画の立案から実行支援まで「実働する医療専門家チーム」を率い、従業員が健康で長く働きながら成長できる企業組織の構築をサポートしている。
目次

転倒防止は、生産と人材を守る取り組み

転倒によって経験のある作業者が休業すると、工程の担当変更、残業の増加、技能継承の遅れなど、職場全体に影響する可能性があります。大きな設備の事故だけでなく、普段使っている通路や出入口にも目を向けることが大切です。

対策は、高年齢の社員だけに注意を求める形にせず、誰もが安全に移動・作業できる職場づくりとして進めましょう。

2026年4月から、高年齢者の労働災害防止措置は事業者の努力義務に

2026年4月1日から、高年齢者の特性に配慮した作業環境の改善、作業の管理など、労働災害防止に必要な措置を講ずることが事業者の努力義務となっています。「今後の見直し」ではなく、すでに施行されている制度です。

同日から「高年齢者の労働災害防止のための指針」が適用され、従来のエイジフレンドリーガイドラインは廃止されました。社内資料を見直すときも、現行の指針を参照してください。

出典:厚生労働省「高年齢者の労働災害防止のための指針」「高年齢労働者の安全衛生対策について」(2026年10月24日確認)。

中小製造業が取り組む5つの手順

手順1|現場を歩き、転倒につながる場所を洗い出す

最初に行うのは、設備の購入ではなく、現場の確認です。管理者だけで回るのではなく、実際にその場所で働く社員から「滑りそうになった」「足を引っかけた」経験を聞き取ります。年齢や経験に関係なく意見を出せるようにしましょう。

確認する場所確認の例
通路ホースや部品、台車が動線をふさいでいないか
床水・油・切粉が残っていないか、マットがめくれていないか
出入口・段差段差に気づきやすいか、荷物で足元が隠れないか
照明通路や階段が暗くないか、明暗差で見えにくくならないか
階段手すりを使えるか、両手がふさがる運搬をしていないか

危険の一覧には場所と状況を記録し、けがにつながる可能性や接触する頻度を考えて優先順位をつけます。「いつも通っているから大丈夫」と済ませないことが出発点です。

手順2|危険そのものを減らし、作業方法も見直す

整理整頓、漏れの修理、配線やホースの引き回し変更など、原因を取り除く対策を先に検討します。注意表示や声かけだけに頼らず、現場に合った対策を組み合わせましょう。

  • 通路の物を移し、保管場所を決める
  • 床の濡れや油汚れの発生源を確認する
  • 照明、床材、段差、手すりを点検する
  • 荷物の運び方や作業動線を変更する
  • 残る危険について、清掃・点検・報告の方法を決める

マットや表示を追加したことで新たな段差や引っかかりが生まれていないかも確認してください。対策後に現場で確かめるところまでを一組にします。

手順3|危険マップと、改善の担当・期限を決める

危険箇所を現場のレイアウト図に落とし込みます。手書きでも構いません。写真を使う場合は、個人情報や機密情報が写らないようにします。

マップを掲示するだけでなく、次の4項目を記録すると改善を進めやすくなります。

  • どの場所で、どんな危険があるか
  • 何を変更するか
  • 誰が、いつまでに対応するか
  • 誰が、いつ改善後の状態を確認するか

朝礼や安全衛生の打ち合わせで共有し、新しく入った社員や応援に入る社員にも伝えます。対策済みの場所も記録を残し、再発していないかを確認しましょう。

手順4|健康・体力の状況を、安全に配慮して把握する

同じ年齢でも健康や体力の状況には個人差があります。年齢だけで一律に判断せず、本人との対話や専門家の助言を踏まえ、作業内容に合った配慮を考えます。

身体機能の確認を行う場合は、目的を事前に説明し、安全な環境と実施体制を用意してください。片足立ちや立ち座りなども、転倒や痛みを生じる可能性があります。自己流で競わせたり、無理に実施させたりせず、体調に応じて中止し、必要に応じて医療職へ相談します。

測定結果を本人の不利益な選別に使わず、作業環境・負担・作業方法を見直すために活用することが大切です。健康情報は取扱者と利用目的を限定し、個人の結果を危険マップや共有掲示に載せないようにしましょう。測定の頻度は、職場の状況や専門家の助言に応じて決めます。

手順5|教育と運動を、無理なく続けられる形にする

安全教育では、一般的な注意事項だけでなく、その職場の写真や危険マップを使って説明します。「気をつける」で終えず、濡れた床を見つけたときに誰へ連絡し、どのように対処するかまで共有しましょう。

運動を取り入れる場合も、環境改善の代わりにはなりません。本人の体調や身体機能に合わせ、専門家の助言を得ながら、場所・時間・担当を決めて小さく始めます。参加を強制したり、痛みやふらつきがある人に同じ動作を求めたりしないようにしてください。

数週間から数か月後に、通路の状態、ヒヤリハットの報告、対策の実施状況などを振り返り、続けること・変えることを決めましょう。報告件数の増加は、危険を報告しやすくなった結果の場合もあるため、件数だけで良し悪しを判断しないことも大切です。

担当者一人で抱えず、確認する仕組みをつくる

転倒対策を続けるには、担当者の熱意だけに頼らない体制が必要です。経営者、現場管理者、社員で役割を分け、短時間でも改善を確認する機会を設けます。

  • 現場の危険を集める人を決める
  • 改善の担当と期限を決める
  • 経営者が必要な人員・時間・費用を判断する
  • 改善前後の状況と、次の対応を記録する

事故が起きなかったことだけで効果を断定せず、決めた対策が現場で実行されているかも確認してください。

まとめ|まずは1か所の危険を改善する

高年齢労働者の転倒防止は、本人への注意や運動だけでは進みません。現場の危険を洗い出し、環境と作業方法を改善し、健康・体力の個人差に配慮することを組み合わせます。

まずは現場を一周し、優先する危険を1つ決め、担当と期限を設定するところから始めましょう。現在の制度を確認する際は、2026年4月から適用された厚生労働省の指針を参照してください。

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