ウェルビーイング経営とは?健康経営との違いと企業が取り組むべき10の実践ポイント

今注目されている“ウェルビーイング経営”をご存知ですか?

これは、従業員一人ひとりの心身の健康にとどまらず、働きがいや生きがい、社会とのつながりまでを包括的にとらえた経営の在り方です。

本記事では、「健康経営」との違いを明確にしながら、なぜ今ウェルビーイング経営が求められているのか、その背景とメリットを整理し、企業が取り組むべき具体的な10の実践ポイントをご紹介します。

中小企業においても導入可能な視点とヒントが詰まっていますので、ぜひ最後までご覧ください。

ウェルビーイングとは?本来の意味と最近の使われ方

ウェルビーイング(well-being)は、1946年にWHO(世界保健機関)が提唱した「健康とは身体的、精神的および社会的に完全に良好な状態であり、単に病気や虚弱がないことではない」という定義に端を発します。

そこから派生して、現在では「幸福」「満たされた状態」「良好なライフバランス」など、包括的な幸せの概念として用いられるようになっています。

企業におけるウェルビーイングは、従業員が心身ともに健やかであり、自分らしく働き、生きがいを感じながら社会と関わっている状態を目指します。

具体的には、身体的健康(運動・睡眠・栄養など)、精神的健康(ストレス対処・メンタルケア)、社会的健康(人間関係・帰属感)などのバランスを支えることが重要です。

また、OECD(経済協力開発機構)や国連などでも、国の発展指標にGDPだけでなくウェルビーイングを加味する動きが広がっており、個人だけでなく組織や社会全体が幸福度を重視する方向にシフトしています。企業としても「従業員の幸福度を高めること」が経営戦略に組み込まれる時代が到来していると言っていいでしょう。

健康経営って何?企業が注目する背景

健康経営とは、従業員の健康管理を経営的視点からとらえ、戦略的に実施することと定義されています。

単なる福利厚生ではなく、企業の成長戦略の一環として健康を位置づけ、組織の生産性や競争力向上を図ります。

近年、企業が健康経営に注目する背景には3つの大きな要因があります。

  1. 少子高齢化の進行による労働人口の減少
  2. メンタルヘルス不調などによる休職・離職率の増加
  3. 健康な職場づくりがブランディングや人材獲得につながるという認識の高まり

要因1.少子高齢化の進行による労働人口の減少

1つ目は少子高齢化の進行による労働人口の減少です。

生産年齢人口(15歳〜64歳)の減少により、働き手が年々少なくなっているのが日本の現状です。

限られた人材をいかに健康に、長期にわたって働き続けてもらうかが経営の鍵となっています。

要因2.メンタルヘルス不調などによる休職・離職率の増加

2つ目はメンタルヘルス不調などによる休職・離職の増加です。

近年、適応障害や鬱症状など、メンタルに支障をきたしてしまう人が増加している傾向にあります。

厚生労働省によると年間400万人以上の精神疾患者がいるようです。
※参考:精神疾患を有する総患者数の推移(厚生労働省)

特に中間管理職や若手社員のメンタル不調は、組織の生産性やチーム力の低下に直結します。

実を言うと、この記事を執筆している私のパートナーも適応障害を発症し、休職・退職した過去があります。

今後、ますます増えていくことでしょう。

要因3.健康な職場づくりがブランディングや人材獲得につながるという認識の高まり

3つ目は健康な職場づくりがブランディングや人材獲得につながるという認識の高まりです。

世界各国の研究で、
健康に支障をきたす事で起こる見えない損失(プレゼンティーイズム)が、損失の8割を占める
ということがわかってきています。

※参考:労働生産性の損失とその影響要因に関する研究(東京大学未来ビジョン研究センター)

それもあり、健康への投資が生産性をあげるという認識が高まり、経済産業省が主導する「健康経営銘柄」や「健康経営優良法人認定制度」など、健康経営を後押しする制度の存在もあって、多くの企業が戦略的に取り組みを始めています。

これらの背景を踏まえると、健康経営は単なるトレンドではなく、持続可能な経営のための“基盤づくり”と言えるでしょう。

健康経営とウェルビーイング経営の違いとは?

健康経営とウェルビーイング経営は、似たような文脈で語られることが多いですが、そのアプローチと目的において明確な違いがあります。

健康経営は、あくまでも「従業員の健康維持・増進」を目的とした取り組みです。

主に生活習慣病予防、禁煙支援、健康診断の充実、メンタルヘルス対策など、医学的・保健的な視点に基づいた施策が中心となります。

一方、ウェルビーイング経営はそれを包含しつつ、より広範な視野で従業員の“幸せ”を包括的に捉える経営スタイルです。

例えば、職場の人間関係の質、働きがい、心理的安全性、個人の価値観や目標の尊重など、「人としての充実」を軸に置いたアプローチが求められます。

つまり、健康経営が“健康のための経営”であるのに対し、ウェルビーイング経営は“幸せのための経営”とも言えるでしょう。

健康診断の実施率や休職者数のような「数字」に着目するのが健康経営である一方、従業員エンゲージメントや心理的安全性、キャリアの満足度など「感覚」や「感情」に関する指標も取り入れていくのがウェルビーイング経営です。

実際にBizWellyを利用している企業様の中には、従業員の健康をよくするために健康経営に取り組んでいましたが、その健康経営を通じて、従業員により幸せになってほしいという風に語ってくれたところもあります。

現代の複雑な労働環境の中では、この両者のバランスが重要であり、健康経営を基盤としながらウェルビーイング経営に進化していく企業が増えています。

なぜ、ウェルビーイング経営が必要なのか?

ウェルビーイング経営の必要性は、現代の労働環境や社会課題から浮かび上がってきます。

以下にその主な理由を3つ挙げます。

  1. 若年層の価値観の変化
  2. 離職率の増加
  3. 心理的安全性への関心の高まり

理由1.若年層の価値観の変化

まず1つ目に若年層の価値観の変化が挙げられます。

かつては「高収入」「昇進」「安定」がキャリアの主要動機でしたが、現在のZ世代やミレニアル世代と言われる若者は「働きがい」「自己実現」「チームの雰囲気」「柔軟な働き方」など、非金銭的な要素を重視する傾向にあります。

この世代に選ばれる企業であるためには、働きやすさや職場の幸福度を可視化することが不可欠です。

理由2.離職率の増加

次に、離職率の増加です。

先ほど健康経営のところでも触れましたが、職場の人間関係やストレス、働き方への不満などによって、従業員が早期に離職するケースが増えています。

特に中小企業では採用・教育に数十万〜数百万円のコストがかかるため、一人の離職が企業に与えるインパクトは非常に大きいものとなります。

理由3.心理的安全性への関心の高まり

心理的安全性への関心の高まりも見逃せません。

Googleが実施した調査でも、成果を出すチームには「心理的安全性」が高いことが共通していたと報告されています。こ

れは、安心して意見を言える、失敗を恐れず挑戦できる環境が、生産性や創造性を引き出す鍵であることを示しています。

このように、ウェルビーイング経営は一過性の施策ではなく、これからの企業にとっての“生存戦略”とも言える存在なのです。

企業が取り組むべき10の実践ポイント

さて、ここからは企業が実際に導入しやすく、効果が見えやすいウェルビーイング経営の実践項目を10個紹介します。

各項目は、従業員の健康・幸福・働きやすさを多角的に支援する内容で構成されています。

  1. メンタルヘルスケアの導入
    従業員が安心して相談できる体制を整備しましょう。例として、産業医や外部カウンセラーとの契約、ストレスチェックの定期実施などが挙げられます。
  2. フレキシブルな勤務制度の導入
    時差出勤、在宅勤務、短時間正社員制度など、個人のライフスタイルに合わせた柔軟な働き方を導入することで、ワークライフバランスの向上が期待できます。
  3. 1on1ミーティングの定期実施
    上司と部下の信頼関係を築くため、業務に関する話だけでなく、感情やキャリアについて話せる時間を意図的に設けることが重要です。
  4. 健康支援プログラムの整備
    社内運動習慣(朝ストレッチ、ヨガ教室)、健康相談窓口、栄養士による食事指導など、日常的に健康増進につながる仕組みを構築しましょう。
  5. 感謝の可視化(サンクスカードなど)
    互いに感謝の気持ちを表現できる文化を促進することで、職場の心理的安全性やエンゲージメント向上に寄与します。
  6. キャリア形成支援制度の導入
    社内外の研修、自己啓発支援、副業制度など、従業員の成長を応援する仕組みを設けましょう。
  7. ハラスメント防止と相談体制の強化
    定期的な研修や社内ガイドラインの整備、匿名相談窓口の設置などにより、安全で安心できる職場をつくります。
  8. ワークライフバランスを重視した労働設計
    長時間労働の是正、有給休暇の取得促進、業務効率の見直しなどを行い、健全な働き方を支援します。
  9. 柔軟な休暇制度の導入
    バースデー休暇、リフレッシュ休暇、看護休暇など、家族や自分自身を大切にするための休暇制度を取り入れましょう。
  10. 健康経営優良法人認定制度の活用
    国や自治体の制度を活用し、第三者認証を通じて自社の取り組みを「見える化」し、社外にアピールすることができます。

これらの実践項目はすべて同時に取り組む必要はなく、自社の現状やリソースに合わせて段階的に導入することが大切です。

重要なのは、「やらされる施策」ではなく、「従業員と一緒に創る仕組み」として取り組むこと。
その姿勢が企業の信頼性と従業員のエンゲージメントを高める原動力となります。

成功している企業の取り組み事例3選

ウェルビーイング経営は、単なる理想論ではなく、実際に多くの企業で成果を上げている取り組みです。

ここでは、異なる業種・規模の企業がウェルビーイング経営を通じてどのような成果を上げているのか、実例を3つ紹介します。

事例1:株式会社A(IT業・従業員数200名)

A社では、週1回の社内ヨガ教室と、ストレスチェックに基づく外部カウンセラーとの連携支援を導入。加えて「ありがとうカード」制度を導入し、職場内で感謝を可視化。これにより、年間離職率が前年の12%から7%へ減少。従業員満足度調査では「職場の雰囲気が良くなった」と回答した社員が78%に達しました。

事例2:株式会社B(製造業・従業員数500名)

B社はウェルビーイング経営を推進する専門部署「ウェルネス推進室」を設置。毎月の健康セミナーや、管理職への心理的安全性に関する研修を実施。定期的に行うエンゲージメント調査では、導入1年目でエンゲージメントスコアが前年比で15%向上。併せて、社内報で好事例の共有を行うことで、部門間の連携強化にもつながりました。

事例3:株式会社C(サービス業・従業員数50名)

C社は小規模ながらも「働きがい向上プロジェクト」を立ち上げ、社員との定例対話の場を設けるとともに、休暇制度の見直しや副業制度の導入を行いました。柔軟な働き方が可能になったことで、従業員の定着率が3年で50%以上改善。社長自らがウェルビーイングを体現するスタンスを取り、社内の信頼と共感を醸成しています。

これらの事例に共通しているのは、トップダウンとボトムアップの両方を活かした仕組みづくりです。

経営陣の強いコミットメントに加え、従業員一人ひとりの意見を反映する風土が、ウェルビーイング経営を成功に導く鍵となっています。

実践のステップ:社内の巻き込み方と外部支援の使い方

ウェルビーイング経営を社内に根づかせ、実際に成果を出すためには、段階的かつ戦略的なアプローチが不可欠です。

以下の4つのステップに沿って、無理なく導入・定着を図りましょう。

ステップ1:現状の課題を「見える化」する

まずは、自社の課題や従業員の声を把握することから始めましょう。社内アンケート、1on1面談、従業員満足度調査などを活用し、現状の働き方に対する満足度や改善要望を洗い出します。また、健康診断結果の集計やストレスチェックの分析も、実態を知る重要な手がかりになります。

ステップ2:経営層のコミットメントとチーム編成

ウェルビーイング経営の成否を分けるのは、経営層の本気度です。理念として社内に共有し、トップが率先して取り組む姿勢を示しましょう。同時に、部門横断型の推進チームを立ち上げ、現場の声を反映できる体制をつくることが重要です。

ステップ3:小さな施策からスモールスタート

いきなりすべてを変える必要はありません。まずは「1日1分のストレッチ」「感謝を伝えるカード」「有給取得を促進するキャンペーン」など、簡単で始めやすい施策から導入しましょう。成功体験を積むことで、社内の理解と共感が広がります。

ステップ4:外部専門家の力を借りる

理学療法士や産業医、保健師、健康経営アドバイザーなど、外部の専門家と連携することで、施策の質と継続性が高まります。第三者の視点を加えることで、社内では見えなかった課題が明確になることもあります。また、外部支援を受けることで、従業員への説得力も増し、取り組みの浸透がスムーズになります。

このように、ウェルビーイング経営は一過性のキャンペーンではなく、「文化として根づかせる」ことが本質です。焦らず、一歩ずつ着実に実行していくことが成功の鍵になります。

まとめ|経営にウェルビーイングを組み込む未来志向

ウェルビーイング経営は、企業が短期的な利益追求にとどまらず、長期的に持続可能な成長を目指す上で欠かせない考え方です。

従業員一人ひとりが心身ともに健康であり、働きがいや人間関係の充実、成長の実感を得られる環境を整えることが、結果的に組織の生産性や創造性、定着率の向上に直結します。

本記事では、健康経営とウェルビーイング経営の違いや必要性、実践ポイント、導入事例、制度の活用方法、導入ステップに至るまで、包括的に解説してきました。

特に中小企業にとっては、大規模な制度改革よりも、まずは「できることから少しずつ」始めることが重要です。

社内の空気を変え、従業員との信頼関係を育むには、経営層自身がウェルビーイング経営の旗振り役となり、理念として根づかせることが求められます。

健康や幸福を軸に据えた経営姿勢は、顧客・取引先・地域社会に対するブランド価値の向上にもつながるでしょう。

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